こんにちは、野村證券でリテール営業に8年従事していた管理人です。
タイトルは2020年9月10日に入ってきたニュースに関連しています。
ニュースを見て感じた所感をツラツラと書いていきます。
事件の概要

元野村證券社員、現日本インスティテューショナル証券社員が現役野村證券社員から顧客情報を不正に取得していたという話です。
証券リテール営業業界では当たり前。しかし令和ではニュースになる。世のコンプライアンス意識に着いていけない証券業界
ぶっちゃけた話、証券リテール営業業界では昔の顧客を引っ張る事は当たり前です。
今回のニュースのように証券会社から証券会社への転職の場合、転職先の証券会社が「で、どれくらいの資産をウチに持ってこれるの?」と聞くのが当然の慣習です。
私の体験談
私も辞める直前にはそれなりの件数とそれなりの金額を担当していました。
しかし、私は8年の証券営業で培った経験や顧客を手放し、監査法人で新卒の新人と同じスタートラインで会計監査に従事する事になりました。
当然、営業マン達が私のところに営業に来ます。
「当時の大手顧客の社名を教えてくれ」
「俺も転職して、今度○○の地域が担当になったから当時の顧客がいたら教えてくれ」
2019年、2020年に現実に存在した話です。
私は会計監査という仕事に就くぐらいですから、僭越ながら寸志を頂こうとも当時の顧客情報を口外する気は全くありませんでした。
証券リテール営業に多い「自己中の究極系」
しかし根掘り葉掘り聞いてくる営業マンで、寸志を渡そうとしてきた人間は皆無でした。
私に人望がないという要因は一旦置いておいて、、
実はこれ、あるあるです。
証券リテール営業業界で成果を出して生き残る人間は
「他人の事なんか知らない、俺が一番、俺様だけが得すればそれでいい」
というようなタイプがめちゃくちゃ多いです。
そういう人間って、人として当然のギブアンドテイクの精神を持っていないんですね。
テイクアンドテイクです。
なんで営業で結果残せるんでしょうかね。
なんとなくですが、稼ぎの悪いDV男が女性にモテる、というような構造を連想します。
想像で物を言いますが、多分このニュースの日本インスティテューショナル証券の部長、そのタイプなんでしょうね。
ギブしないから7ヵ月も顧客情報を流し続けてくれていた部下が離反したんでしょう。
本当に思うんですがギブアンドテイクの精神なしでよくその歳まで社会生活送れましたね。
従業員不正はなくならない
話が逸れましたが、誰が悪いかと言えば、7ヵ月も日本インスティテューショナル証券の人間に野村證券が保有する個人情報を不当な手段で外部流出させた野村證券社員が一番悪いです。
監査法人による会計監査では経営者不正と従業員不正に着目して手続きを実施します。
が、最終的な目的は「企業が発行する財務諸表の数値に重要な虚偽表示があるかどうか」を確かめる事です。
なのでどうしても経営者不正の有無に重点を置き、従業員不正をチェックする時間は潤沢には取れません。
なおかつ、こうした不正を防ぐため企業体には内部統制という自浄作用がありますが、内部統制にはいくつかの弱点があり、その中の一つに「共謀」があります。
つまり今件のように、従業員が悪意を持って不正な行動を取る時には内部統制は機能しない事が多いです。
会計監査と内部統制、どちらにも限界があるので従業員不正はなくならないと言えてしまうのです。残念ながら…。
証券リテール営業業界は世間が求めるコンプライアンス水準に追いつけるのか
今件のような従業員不正のケースはどうやったら防げるのか。
あくまでも理屈の話ですが、一般的には内部統制を構成する要素のうち「企業環境」が最も重要であると言われています。
字面で想像しやすいと思いますが、「会社の文化として不正を許さない体制」や「経営者の根本の考え方」等が具体例です。
長年、ノルマ証券と揶揄されるモーレツ営業部隊です。
どういった企業環境なのかはお察しください。
とはいえ、ここ数年は野村HDのCEOからコンプライアンス重視のメッセージが発信され続けています。
いずれは企業環境も変わるのかもしれません。
が、今の世の中の動きとして定年も伸びるでしょう。
ノルマ証券世代の人間がいなくなるまであと30年はかかりそうですね。
令和の世が求めるコンプライアンス遵守意識に追いつくまであと30年…
発覚しても懲戒解雇や賠償金支払程度、命までは取られない
リテール営業をしていた当時、周囲の人間達が好んでいた言葉に
死ぬこと以外かすり傷
というものがあります。
営業マンも死ぬまでの事なら何が何でも数字を達成する!という意識が強いですし、上司も死ぬ直前まで詰めます。
そんな環境に長年身を置き続けている彼らにとって、懲戒解雇や賠償金支払はかすり傷です。
なのでコンプライアンス違反=死刑とならない限り証券リテール営業業界から従業員不正はなくならないでしょう。
もしくはあと30年経過するか…
再発防止策:詰めの文化で歪む人間性、数字を取るかコンプライアンスを取るか
当然ながら全員ではありません。数字も稼ぎ、コンプライアンスも守るまともな人間が大半です。
そのうえで、詰めによる数字と法令遵守意識とがトレードオフの関係になっている人間が一定数います。少なくとも私が辞める2018年までには確実にいました。
詰めて恐怖政治により社員に数字を持って帰らせる、という営業方針もコンプライアンスを考慮すると今後は難しいのかもしれません。
本当に追い詰められると自制意識や周囲への忠誠心を考える精神的余裕がなくなりますからね。
私も詰められた経験者として、「会社に行きたくなさ過ぎて電車に飛び込んだ」というニュースにはとても共感を覚えます。
詰めに慣れて何も感じなくなってきた頃には「そんなに嫌なら辞めたらいいのに」という当たり前の思考が出来るようになりました。
しかし本当に何も考えられなくなるほど精神的に追い詰められるケースは存在します。
自分の命を投げ出してしまうほど正常な判断が出来ない人間に、コンプライアンスが守れるとは思いません。
詰めとコンプライアンスをトレードオフの関係として考えてしまう人間が一定数存在する事はどうしようもありません。
ではどうしたら再発防止になるか。コンプライアンスを守るためには詰めをなくせばいいのです。
もし証券リテール営業業界から詰めがなくなったら、どうなるんですかね。
業界各社も真剣に考える時期に来ているのではないでしょうか。
従業員不正がなくなる事を願います。
色々書きましたが、詰めはなくなってきています。
詰めが直接的に影響する「営業成績の虚偽報告及び虚偽穴埋めの為に顧客資産を利用して無断で金融商品の売買を実施する」というタイプの従業員不正は着実に減少してきています。
顧客資産を自由に扱えた当時の金融業界が特殊であったという見方も出来ますが。
少なくとも顧客資産の無断使用という不正は過去多発しており、令和の現在、発生件数が激減している事は事実です。
そういった意味では業界各社は従業員不正を減らす事に一度は成功しています。
是非、顧客情報に係る従業員不正も撲滅出来るよう関係各社(者)には頑張って頂きたいものです。
それでは次回の記事でお会いしましょう。